映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶
のん / 片渕須直 監督

2016年11月12日に公開された映画『この世界の片隅に』は、公開初日から2018年8月15日の今日まで1日も途切れることなく上映が続いており、連続上映日数は642日を超えようとしている。
そのような記録的なことが続いている中、テアトル新宿でも再上映が行われ、片渕須直監督と主人公すずの声を演じた のんが舞台挨拶に登壇し、12月公開の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』についても語った。(動画&フォトギャラリー67枚)

連続上映記録継続中!

2016年11月12日の公開当初、テアトル新宿・ユーロスペースなど63館でスタートした本作。
その後、累計上映館数は400館(ホール上映を除く映画館のみ)を超え、累計動員数209万人、累計興行収入27億円。
1日も途切れること無く上映が続き、642日を超えようとしている2018年夏の再上映館数は27劇場で、うち11館で舞台挨拶を実施している。
また、第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞をはじめ、国内外併せて約70の賞を受賞している。
改めて、凄まじいという表現がピッタリなほどの映画作品だ。

8月15日という日

一般的に日本では、8月15日=終戦記念日ということになっているが、片渕監督は、「戦争のことを思うのは8月だけでいいのか?っていう思いがあって。すずさんの人生も8月だけではなく、その後も続いていたし。でも、『この世界の片隅に』がこの時期、いろんな方の顔を思い出せる役目を担わせていただけるならありがたいと思っている」と、本作が長く支持され、公開当初から大きく広がった役割の実感を語った。

終戦の日も普通の日常があったはずだった。

8月15日は玉音放送が流れて、国民に戦争が終わったことが伝えられたというのは歴史で学ぶこと。
でも、片渕監督の調査では、この日のラジオは元々、「民謡の旅」など、ごく普通の番組の放送が予定されていたとのこと。
なので、玉音放送は特別番組で、以降、しばらくは少なくともラジオの中では日常が消えた時期があった。
でも、人々の生活はたくましく、すぐに普通のことを考え始めていて、復員した兵隊たちは退職金のことを計算していたり。
すずさんもそういう世界の片隅に生きていた一人であり、それが現代の我々に繋がっていると片渕監督は語った。

12月公開『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

7月26日に解禁となった『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の特報映像で、のんさんは、2年ぶりにすずさんを演じた。
それについてのんさんは、「久しぶりだったので不安な気持ちはありましたが、何度かやっていくうちに手応えを感じました」と、女優としてのさすがの才能と自信の片鱗を伺わせた。
また、特報の収録日は、のんさんの誕生日前日で、片渕監督が誕生日ケーキを多めに食べたことについて「ひとりで半分食べた!(実際は半分以下)」とのんさんは監督にイタズラを仕掛けたエピソードも紹介した。のんさん自身考案キャラに「ワルイちゃん」がいるが、まさにその片鱗を垣間見るエピソードに、客席は大きな笑いが。また、片渕監督もすずさんの「アチャー顔」を連発していた。

大人っぽくなったすずさん

片渕監督によると、今回の特報映像を観た原作者のこうの史代さんが「今までにない大人の声のすずさんですね。すごく良かったです。」と高く評価していたという。
映画本編のアフレコはこれからということだが、のんさんは「こうの史代先生がおっしゃるようにちょっと大人っぽいすずさんだったりするので、その部分の解釈をもっと掘り下げて監督と密にやっていけたらなと思います。」と意気込みを語った。

公開2年目とは思えないマスコミの数

片渕監督自身、公開初日より今日の方がフォトセッションタイムが長かったと語っていたが、事実、本日の再上映舞台挨拶に駆けつけたマスコミの数はとても公開2年目の作品とは思えない多さだった。
その多さは、超メジャー級新作映画作品の初日舞台挨拶でもなかなか見られない光景で、テアトル新宿というハコの大きさからすると、明らかにオーバーフローしていた。
事実、17席用意されているスチール席の倍以上の記者 or カメラマンが列を作っていたし、ムービー取材チームも、各映画メディア、地上波テレビ2局も来ていた。
そこを通りかかった片渕監督は驚いたようすで、おもわずその光景を撮影されていたほどだ。
マスコミ各社も「すごいな・・・」と驚いていた。
『この世界の片隅に』、そして12月公開の『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の注目度は非常に高い。
また、ここまでの作品を創り上げた片渕監督とその関係者、そして、主演声優を務められたのんさんの才能は、日本の映画界のこれからの可能性をさらに大きく拡げることになるのではと期待せずにはいられない。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
2018年12月より、テアトル新宿、ユーロスペースほか全国ロードショー
©2018こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

この世界の(さらにいくつもの)片隅に

舞台挨拶全編

※舞台挨拶全編の紹介の後、動画とフォトギャラリーもあります。

のん
みなさん、今日はご来場いただきありがとうございます。
すごく久しぶりにテアトルに来れて嬉しいです。今日はよろしくお願いします。

のん - 映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶

片渕監督
ほんとに2016年11月公開の映画なんですけど、今日に至るまで640日を超えて、1日も欠かさずずっと全国のどこかの劇場で上映を続けていただいて、そしてまた一番最初に舞台挨拶をしたここに立たせていただいているんですね。
その時の同じ並びで二人、立ってて、上手下手が決まってるんですが、まだそういうコンビで続けられるというのがありがたいなと思います。

片渕須直監督 - 映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶

– 初日公開から642日間、1日も途切れることなく上映が続いていることについて

片渕監督
映画を作っている時はクラウドファンディングでたくさんの方々に支援をお願いしなければ作り始められないんではないかなというところから始まってきた映画なんですが、作ってる途中もそうですが、映画が出来上がった後もたくさんの方々がこの映画のことを応援してくださっていて、それが今日に至ってるなと思います。お客さんもそうですし、マスコミの方々もそうですし、何より劇場の方々とずっと仲良くさせていただいてて、それがほんとに自分たちにとってもたくさん場所を与えていただけてるなと思って実感しています。

のん
ほんとに嬉しいことだなって思っていて、私も作品に参加してこんなに長く作品と付き合っているのが初めてなので、とっても貴重な体験で、こんなに皆さんに愛されている作品は世界中どこを見てもこの作品だけなんじゃないかって自分で思ってしまうくらい、すごく嬉しいです。

– 今日は8月15日ということで今日の上映・舞台挨拶をどのように感じられてますか?

片渕監督
もちろん戦争が終わった日ではあるわけなんですけども、実は映画を作っている途中に「この映画はいつ公開するんだ」っていう、それによってスケジュールが決まってしまうわけなんですが、「やっぱり8月の映画だよね」っていう話をたくさんいただいたんですね。
でもそうかな?って思いまして、それは8月だから戦争のことを思い出すのか、それ以外の時は思い出さなくていいのか?
8月以外の日にもいろんなことがありましたし、それからすずさんの人生も8月だけのものではなくて、ずっとずっと長い日の中をすずさんは生きていたわけですよね。
そういう意味で言うならば、あえて皆さんにわかっていただける機会にもなるから、夏を避けてむしろ物語が冬に始まって冬に終わっている映画だから、そういう季節に上映を始めた方がいいんじゃないかなと思って、2016年の11月12日公開になったわけです。
でも昨年もそうなんですけど、こうやってこの映画の上映がずっとずっと続いているもんですから、そうすると8月に観ていただけると、8月には原爆のこともありますし、終戦のこともあって、いろんなことがあって、映画をご覧になる方が自分の近い親戚の方とかあるいはおじいさんおばあさんとか、そういう方が、すずさんと同じ頃、どういうことをされていたのかなっていうのを重ねて思い出していただけるような機会が増えてきたみたいなんです。
そういう意味で言うならば、8月15日は、いろんな方の顔が思い出せる日として今日があって、そこに「この世界の片隅に」がある種の役目を担わしていただいているのであればありがたいなと思っています。
すずさんのこと、「この世界の片隅に」という映画を観て自分の家のおじいさん・おばあさん、それから、名前も知らないかもしれないけど、自分の親戚が当時はどんなふうに生活していたんだろうってことを思い浮かべていただける、そういう機会になったんだとしたらありがたいなと思っています。

– 劇中でも終戦の日が描かれており、玉音放送を聞いたすずさんが井戸の水を汲んで畑に行って泣き叫ぶシーンがあります。感情的にも非常に高まるところだったと思います。のんさん、このシーンを演じられた時どのような思いで演じられたのでしょうか?

のん
最初にあのシーンを見た時に、私の中でそれまでのすずさんからはすごく意外な気がしました。
でも、逆に考えるとすずさんはそれだけ自分の中に押し込めている感情があったんだって思えてきて、すずさんの中で怒りみたいなものが終戦の日にいきなり逆流してきて溢れ出てしまったのかなって考えていました。
でも監督にそのシーンのお話をしていた時に、ほんとに終戦の日に、すずさんみたいになんだか分けもわからないけどボロボロボロって涙が出てきてしまったっていう方がたくさんいらっしゃったらしいっていうのを聞いて、そういう自分でも説明のつかないような感情があるんだなと思って、そのイメージもふまえながら、すずさんの中にあるかもしれない怒りを込めて演じました。

映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶

– Blu-rayの特典映像にもなっていますけど、収録は気持ちを集中させるのにすごくご苦労されていたのかなって思うんですけど、大変でしたか?

のん
最初、すずさんが泣いている声を録る時に、私は声の演技だけでやるっていうのは、涙を流しながらじゃなくてもテクニックだけで泣いている声を出さなくてはいけないんだと思っていました。
でも、鼻にかかったような泣いたような声にならないとすずさんにリアルを与えられないっていうことで、監督と音声さんが、のんが集中できるように録音ブースを真っ暗にしてくださいました。

片渕監督
それは2016年の8月なかばくらいでしたから、2年前の今ごろ録音してたんですね。なんか懐かしいですね。8月14日くらいが一番最後だったような気がします。

のん
すごい記憶力(笑)

– 8月15日のあと、どのようになっていったのかお話ください。

片渕監督
すずさんの家は8月15日に勝手に灯火管制を解除してしまってて、実際あの日にも灯りを点けた家は全国にたくさんあっただろうと思うんですけど、実際にはまだ戦争は続いていたんです。
停戦は8月22日の午前0時なんですよ。
8月15日はポツダム宣言受託を決めたっていうだけなんですね。
その間にいろんなことがあって、例えばラジオは8月15日は玉音放送が流れましたが、あれは特番で本来なかったわけです。
もし玉音放送が無かったら、「民謡の旅」っていう番組をやっているはずで、その日の朝は「盂蘭盆会(うらぼんえ)中継京都から」って番組を放送しているはずだったんです。
戦争中なんだけど、そういう日常が流れていたのが終戦によって途切れて、ラジオはその後時報とニュースだけになります。
それから一番最初に復活したのが天気予報で、その次に復活するのがラジオ体操なんです。
そういうところから今の我々に繋がっているんだなと思ったりもしました。
今日からの1週間、戦争が終わると決めたんだけど本当に終わるまでの1週間に何が行われていたのかなって調べたら、たくさんの兵隊の人たちが兵隊じゃなくなって、復員しなくちゃいけないんだけど、その退職金の計算をいきなり始めていたり。
戦争っていうのはものすごく非日常なんだけど、どこかには普通に給料を払ったりとか、退職金を払わなくてはいけないとか、たくさんの人が戦場から帰ってくるなら移動の足はどうするのかとか、ごく普通のことを同時に考えるっていう不思議な世界だなって思ったんです。
すずさんはそういう片隅にいたんだな、すずさんがご飯を作っているのもそういう世界の片隅にことなんだなっていう感じがしました。

– 12月公開の「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」というタイトルは監督がお考えになって、こうの史代さんが快諾されたものですが、このタイトルにこめた思いをお聞かせください。

片渕監督
今日もご覧いただいた「この世界の片隅に」っていう映画は、本来だったら原作にある場面が一部なくなっているんですけども、そのおかげですずさんという人の人となりをずっとずっと紹介していく映画だったと思います。
でも、すずさんは一人ぼっちで呉にお嫁に来てから、たった一人5歳の姪の晴美ちゃんだけが友だちみたいな生活をしていたんですけど、もっともっとすずさんが出会った人たちがいて、それからすでに知っていた人たちもどういうふうに変化をとげていくかみたいなのをすずさんは目の当たりにしているわけです。
そうやってすずさんが他にも出会った人たちのことも含めて、それを語ることによってすずさん自身がどんなふうに変わっていって最後の結末に至ったかってことをもう少し詳しく描いてみたいなと思っています。

映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶

– 7月26日から特報が解禁となりましたが、このナレーションをのんさん、新録で録りましたが、久しぶりにすずさんを演じてどのような感触を持ちましたか?

のん
前回すずさんを演じてから期間が空いていたので、またできるかなってちょっと不安な気持ちがあったんですけど、片渕監督と録音スタジオで会ってブースに入って、何度かやっていくうちに「あっ、大丈夫だな」って思って(笑)、手応えを感じました。

– 片渕監督からご覧になってその時ののんさんはいかがでしたか?

片渕監督
その日はちょうどのんちゃんの誕生日の前の日で、僕はその時のケーキを半分は食べていないので(笑)

のん
いや、違うんですよ(笑)
でも気づいたらホント、なくなってて。
たぶんその時は監督がけっこうな量を食べて、その後他の誰かが食べて半分になったんですよね?

片渕監督
そうです。でも、申し訳ないんですけど、のんちゃんより多く食べたのは間違いないです(笑)

のん
ハハハッ(笑)
私は(監督が半分も食べてないって)知ってたんですけど、半分って言ったほうがわかりやすかなって思って(笑)

片渕監督
話を盛ったんですね?

のん
盛っちゃいました(笑)

映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶

映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶

片渕監督
まぁ、そういう中で録音したんですけど、今までにないすずさんの感じが出せるといいなって思って、それのちょうどいいテストケースになるなって思って特報の録音に臨みました。
出来上がったのを原作者のこうの史代さんが聞いてくださって、「今までにない大人の声のすずさんですね。すごく良かったです。」って言ってくださったんです。

のん
嬉しい。ほんとに嬉しいです。
そう言っていただけるのはありがたいですね。それは褒め言葉ですもんね?

片渕監督
褒め言葉ですよ(笑)

– 特報の録音だけ先行させていただいて、本編のアフレコはもうすこし後になろうかと思いますが、のんさん、どのような意気込みで臨んでいきたいと思っておられますか?

のん
これから付け足していくすずさんのシーンが、こうの史代先生がおっしゃるようにちょっと大人っぽいすずさんだったりするので、その部分の解釈をもっと掘り下げて監督と密にやっていけたらなと思います。

– 最後にメッセージをお願いします。

のん
みなさん、今日はお越しいただきありがとうございました。
これから、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』も公開されるということで、たくさんの方々に観ていただけるチャンスかなと思っています。是非また観に来ていただけたらなと思います。お楽しみに!

片渕監督
今日、劇場の前まで来て、ロビーにマスコミの方がたくさんいてビックリしたんですけど、一般のお客さんもビックリされたんではないかなと思うんですけど、正直言って、公開初日よりもフォトセッションタイムが長かったです。
600日以上経った映画がこんなふうにお客さんに来ていただいたのももちろんですし、こんなにたくさんのカメラで、“のんちゃんを”撮りに来ていただいているのは素晴らしいなと思います。
ほんとにありがたいと思います。
でも、機会が与えられるならばまだまだこの映画が上映を続けていきたいなと思います。何よりもこの映画の中ですずさんが生きているわけなんですけど、そのすずさんだけではなく、その周りにあるもの、いろんな山々、町、人々、それから空を飛んでいる鳥たちや飛行機、そういうものって空間があって、それは映画館の中でいちばんよく再現できるんじゃないかなと思います。
大きな音もしますし、ひょっとしたら時々は震えているような振動が伝わってきてしまうかもしれないんですけども、そういうものも含めてすずさんがどういうところにいたのかなっては、映画館が一番よく味わっていただけると思います。
まだまだこれからも劇場での上映が続いていくといいなと思っています。
ですので、これからもまだまだよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。

映画『この世界の片隅に』8月15日再上映舞台挨拶

舞台挨拶動画

フォトギャラリー

[写真:Ichigen Kaneda / 動画・記事:Jun Sakurakoji]