虹色の朝が来るまで
今井ミカ監督/乙武洋匡/長井恵里/玉田宙

11月20日、シネマート新宿にて映画『虹色の朝が来るまで』の舞台挨拶が行われた。本作は、ろう者の監督が描く、全編手話で綴られた、ろう者×LGBTQの心温まる物語。舞台挨拶には、本作に共鳴した乙武洋匡がゲストとしても登壇し、“ハンディキャップ”とは何か。そして本作がその架け橋になると語った。

映画『虹色の朝が来るまで』について

制作時からメディアに取り上げられ、国内外の映画祭で満席の上映を続けてきた本作。シネマート新宿にて開催中の映画祭「のむコレ3」の中の1本に選ばれ2019年11月20日より待望の劇場公開を果たした。
監督は、自身もろう者である今井ミカ。さらに演じる役者陣もろう者が集められた。ろう者×セクシャル・マイノリティ×地方都市という、いくつもの生きにくい環境が重なる中で悩み続けてきた監督が、本作で初めて音響をつけた作品製作に取り組み、悩み苦しみながらもやがて誰にでも来る素敵な朝を信じ生きる姿を、等身大で描いている。

これまで、音が無い、いわゆる、ろう者向けの映画作品を撮ってきた今井ミカ監督。
舞台挨拶で、本作では初めて“音”を付けたことについて聞かれると、聴者(耳が聞こえる者)でも楽しんでいただき、ろう者の世界、ろう者の文化を知っていただくきっかけになればと、その思いを語った。

それを受けて、乙武洋匡は、まさしく障害者と健常者との架け橋になる作品だし、それは、オリンピック・パラリンピックでも同じことが言えると語った。すなわち、「パラスポーツ=障害者のスポーツ」とは考えずに、例えば車椅子競技であれば、障害者がやるスポーツというよりは、“車椅子を使うスポーツ”という考え方。
“障害”というものは、誰にでもある“苦手なこと”のひとつに過ぎなく、それを嘆くよりは、できることに最大限努力するパワーを注ぐ生き方が大切だと話した。

映画『虹色の朝が来るまで』は、11/20より、シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

舞台挨拶レポート

虹色の朝が来るまで

舞台挨拶は手話通訳を交えて行われた。

映画公開を受けて

今井ミカ監督
今日はたくさんの方にお集まりいただき本当に嬉しい思いです。
このように劇場公開ができたことは、今までの皆さんの応援があってのことだと思っています。ありがとうございます。

今井ミカ監督
今井ミカ監督

乙武洋匡(スペシャルゲスト)
やはり一般的に考えると、ろう者の方が映画監督を務めるというのはものすごく難易度の高いチャレンジに映ると思うんですけど、見事にそれを成し遂げて、多くの方に観ていただける映画になったということは、ほんとに称賛に値するなと思っております。

乙武洋匡
乙武洋匡

奥浜レイラ(MC)
本作は、クラウドファンディングでの寄付を元に製作された作品です。商業映画ではなく、予算もマンパワーもインディペンデントな作品となりましたが、世界中の映画祭を周って、いよいよ今日一般公開ということになりました。改めて今のお気持ちをお聞かせください。

今井ミカ監督
ありがとうございます。私は子どもの頃、ろう学校に通っていたのですが、その時から映画監督になりたい夢を描いていました。
でも、周りにはいないということで諦めかけていたのですが、その中でいろんな人と出会い、もしかしたら私にもできるんじゃないかという夢がついにこのクラウドファンディングを通して、たくさんの方々に応援いただいたので、背中を押してもらい、一歩ずつ一歩ずつ足を進めることをができてほんとうにありがたかったです。
今は、人生の中で一番いい時間だと思いますので、これからもまた次の作品に繋げていきたいと思っています。

長井恵里(主演・華役)
こんなに多くの方に来ていただいた光景を見まして嬉しく思います。これまで、海外でのいくつかの映画祭での上映もあった中、香港の会場には実際に行きました。また私の出身地の徳島でも映画を上映させていただいて、ほんとに貴重な機会をたくさんいただきました。
今まで、映画というものは映画館で観るものだったんですけれど、まさかそれに自分が出演できるとは思っていなくて、改めて不思議な気持ちでここに立っています。
今井監督に出会えたこと、また、JSLTimeのメンバーに出会えたこと、そしてクラウドファンディングでご支援いただいた方々に感謝の気持でいっぱいです。

長井恵里
長井恵里

玉田宙(ゲイの青年・翔役)
多くの方々に観ていただけてほんとに嬉しいです。初めて今井監督とお会いした時は、本作についてまだ何もわからなかったんですけれども、いろいろ説明を伺う中で、そういえば自分の経験を振り返ると、そんなことがあったなと共通点を思い出しながら演じました。
ろうの世界ですとか、LGBTの世界ということとは関係なく、いろんなところで皆さんに観ていただきたいですし、このようなきっかけを作ってくださった今井監督に感謝しています。

玉田宙
玉田宙

聴者とろう者の架け橋となる作品

境遇が違う者同士でも理解者になれるように。

奥浜レイラ(MC)
作品の中でキャストの皆さん、ほんとに生き生きとされていました。聴者とろう者の架け橋となる作品というのは今までは生まれづらい世の中だったと思いますが、乙武さんは本作をご覧になっていかがでしたか?

乙武洋匡
まずは、映像が透明感があって美しいなという印象を受けました。長井さんのように演技は初めてというキャストの方がいらっしゃる中で、まるでずっと俳優をやられてきたかのような素晴らしい演技をなさっているということにも非常に驚かされました。
ストーリーとしては、私もマイノリティの活動を続けてきた一人として、悔しいなぁって思わされたことがあります。
この作品は、今井監督ご自身のことも投影されているということですが、その物語の中で主人公である2人を救ったのはやはり同じ当事者同士でした。
ですので、やはりそこは、境遇が違う者であっても、理解者になり、彼らを救う存在になるんだという人が、一般の社会ではもっともっと出てこないといけないなぁということを強く感じさせられました。
映画の中では同じ境遇の者同士が救いの存在になったということですけども、この映画を観てくださった方が、私は同じ境遇では無いけれども理解者になるよと思ってくださる方が1人でも2人でも増えてくださると、映画が伝えたいメッセージが意義深いものになってくるのかなと感じます。

初めての演技経験

奥浜レイラ(MC)
主演の長井さんは今回が演技初ということですが、演じられてみていかがでしたか?

長井恵里
はい、演技の経験がまったくない素人でした。なのでこんな大役は私にはできないんじゃないかと、とても不安でした。
そんな時、今井監督から次の言葉をいただきました。
「皆、普段の生活の中で、たとえば初対面の人と会う時は、初対面の人に会う表情を作るでしょ?それを高橋華ならどういう表情をするかを考えてみなさい。」
これで、演技だけではなくて、日常生活の中でも私はいろんな表情を作ったりしているんだというように気持ちを切り替えることができました。
撮影現場ではカメラマンの湯越さんからはプロの視線でアドバイスをいただいて、そして、私の第一言語である手話でスタッフたちとコミュニケーションを取れたということもとても撮影がしやすかったことのひとつです。
そういう中、自分自身で最高の演技ができた!と思った時に、カメラトラブルが起きてしまって、とても悔しい思いをしたのですが、それも良い思い出だなと思っています。

奥浜レイラ(MC)
それはどのシーンだったのですか?

長井恵里
最後のバーで私が泣くシーンです。

長井恵里
長井恵里

奥浜レイラ(MC)
玉田さんはこれまでもご出演の経験があるということですが、本作での撮影はいかがでしたか?

玉田宙
出演は本作が3作目になるんですが、それぞれ種類がまったく異なる映画で、今回のようにろう役での出演は初めてです。
今井監督から、“翔”とはこういう人だよという説明を聞いて、最初はなかなかイメージがつかめなかったのですが、演じていく中で、監督からの演出、そして監督と話し合いをしていく中で、“翔”という人がわかってくるようになりました。

玉田宙
玉田宙

ろう者向けに書いた脚本

奥浜レイラ(MC)
今井監督はどのように演出されましたか?またカメラマンの方は聴者の方ということで、どのようにコミュニケーションされましたか?

今井ミカ監督
製作者のスタッフは99%がろう者だったのもあり、手話でのコミュニケーションが基本でした。
脚本も、普通は日本語ですが、日本語と手話は別の言語ですので、脚本にする時に、手話の文法に合わせて手話用の脚本にし、演技指導しました。
カメラマンは聴者の方でしたので、手話の脚本を渡した時に、どのように見ればいいのか大変だったとは思いますが、聴者の方も逆マイノリティの中で一生懸命にしてくださって、撮影は思うように進めることができました。

奥浜レイラ(MC)
永井さんは手話の台本をご覧になっていかがでしたか?

長井恵里
最初台本をいただいた時は、日本語の文章だと思ったんですけれど、手話の文法に当てはめて、単語と単語の間にスラッシュが入っているんです。そうすると、第一言語が日本手話なので、私としては意味がとても掴みやすかったですし、演技の時もセリフをすんなりと出すことができました。

長井恵里

玉田宙
私もとても理解しやすい台本だと感じて、そのおかげで演技に集中することができました。

虹色の朝が来るまで

奥浜レイラ(MC)
先ほど、乙武さんが同じ境遇同士の作品になっているとおっしゃってましたが、本作は監督ご自身のことも盛り込まれているということで、そのあたりは脚本について悩まれたことはありましたか?

今井ミカ監督
私は、男性でも女性でもなく中性的だと自分のことを思っています。LGBTQという言葉がありますが、私がそれに当てはまるのかもわからないです。自分の中ではそういうこだわりは無くしたいなと思っていて、その人のありのまま、たまたま好きになった人が、好きな人。
そういうことが、私が小さい頃からの経験でもあります。私は、群馬県に一つだけあるろう学校に通っていたのですが、自分のことを言ってしまうと、周りからの反応で自分の居場所が無くなってしまうと思ったんです。
脚本を書く時にはそれを思い出しながら書いた部分もあるのですが、やはり、社会を変えたいという思いがあって物語の中にも盛り込ませていただきました。

“音”がある作品を撮った理由

奥浜レイラ(MC)
今井監督はこれまでも映画を撮られてきて、今回初めて音を付けるというチャレンジをされましたけども、音のある作品というものを作られていかがでしたか?

今井ミカ監督
今までまったく音のない映像を作ってきました。というのも、ろう者は目で生きる人ですので、音の必要性は特に感じないからです。
でも、聴者の方からしてみると、音がないと何か物足りないという印象を受けるそうなので、ろう者が楽しんでいただける内容に、音をつけることで聴者の方も楽しんでいただけるようにと。
そうすることで、ろう者の世界ってこういう世界なんだって踏み込んでいただけるきっかけに、ろう者の文化を知っていただけるきっかけになるのであれば、耳が聞こえない人って可哀相っていう考え方が無くなると思ったんです。
なので、聞こえる人、聞こえない人、どちらにも楽しんでいただけるように音を付けさせていただきました。

今井ミカ監督
今井ミカ監督

奥浜レイラ(MC)
これだけインターネットが発達した中でも、自分たちと違う文化で生きている人たちを繋ぐというコミュニケーションが生まれづらい現代ではありますが、この作品をご覧になってその“架け橋”というのは感じられましたか?

乙武洋匡
今、今井監督からろう者の文化も知っていただきたいというお話がありましたけれど、例えば本作で、華が付き合っていた男性と別れるというシーンでは、気まずくなって目をそらすというシーンがあります。
当然、手話で会話をするとなると、相手を見ていなければならないわけですけれど、そういうコミュニケーションを取る人々でも気まずくなると目ってそらすんだなっていうのは、新鮮に写りました。
ろう者の方々にとったらそんなの当たり前って思われるかもしれないけど、聴者にとってはそういうところが新鮮に感じられたりとか、そういう点でも架け橋になるかなと思います。

「義足プロジェクト」に取り組む理由

奥浜レイラ(MC)
乙武さんが今やられている「義足プロジェクト」の内容について教えて下さい。

乙武洋匡
私は今、“義足で歩こう”というプロジェクトに参加させていただいているんですけど、そもそも、皆さんの“膝”って、すごい良くできているんですよ。
というのも、曲げようと思えば曲がる。でも、ガクッと曲がりすぎることはなく、自然と適度なところでロックがかかる。そしてまた伸ばそうと思えば、スッと伸ばすことができる。
これを膝の無い人間が機械で再現しようと思うと、ものすごく難しいことらしいんですね。
ただ、最新のテクノロジーで、人間の“膝”を出来る限り再現したモーターというのが出来たので、そのモーターを組み込んだ最新式の義足で、私のような両手も両足も無いような人間が歩くことができるだろうか?ということを、義足のエンジニアであったり、義手・義足を専門的に作るお仕事の方々であったり、理学療法士というリハビリなどを担当する身体のプロフェッショナルの方だったり、そういう方々とチームを組んで、今一生懸命取り組んでいます。
私自身は、生まれつきこの身体だし、3歳からこの電動車椅子で生活をしているので、私個人がそこまで歩きたいという思いは無かったんですけれども、ただやはり、事故や病気などで、途中から歩くことができなくなった方は、車椅子のようなものがあったとしても、自分の足で歩きたい、という思いを強くお持ちらしいんですね。
そういう意味で、私をはじめ、プロジェクトメンバーの頑張りによって、そういった義足が実用化できるところまでいけば、多くの方に希望を与えることができるのではないかということで、今、一生懸命取り組ませていただいています。

乙武洋匡

“違い”をもっと楽しむ

奥浜レイラ(MC)
来年の東京オリンピック・パラリンピックを控えていて、ダイバーシティとかインクルージョンという言葉をよく目にするようになりました。そういう中で乙武さんが活動されていることに関しては、どのように感じられていますか?

乙武洋匡
先ほど今井監督のお話をお聞きしていて非常に共感できたのが、これまではろう者の方に楽しんでいただける映像を作っていたので、音を付ける必要が無かった。でも、聴者の方にも一緒に楽しんでいただくためには音を付ける必要があったという点。
というのも、私自身は車椅子ユーザーということもあって、オリンピック以上にパラリンピックへの思い入れが強いんですね。
ところが、そのパラリンピック、パラスポーツというのは、なかなかオリンピックほどの盛り上がり、広がりというのが難しいという中で、私は、「パラスポーツ=障害者のスポーツ」とは考えずに、健常者の方にも見るだけではなく、どんどんやる側としても参加していただきたいなと。
つまり、障害者が車椅子に乗ってやるスポーツということではなく、車椅子という道具を使って健常者も障害者も共に楽しめるスポーツ、というふうに皆さんに定義を変えていただければ、もっと広がりを持って楽しんでいただけるのではないのかなと以前より思っていたし、伝えてきました。
ですから、先ほどの“音”の話は、同じだなって思ってお聞きしていたところです。

奥浜レイラ(MC)
“違い”というものをもっともっと楽しんで、繋げていくものにするには、可視化、見えるものにするのが大切なので、やっぱりそうした活動も、この作品ができたことはとても意義深いなと聞いていて思いました。

最後にメッセージ

乙武洋匡
私自身は身体障害者で、何かをしようとすれば当然ハンディはあると思います。登壇されているお三方も、他の方のように聞くことはできないということで、ハンディはあると思います。
ただ、どんな人でも苦手なこととか、他の人と比べるとマイナスに見えるポイントというのはあるので、誰もが何かをしようと思えば、「あぁ、もっとここがこうだったらいいのにな」って思ってしまうポイントってあると思うんですよね。
そこは、いくら悔やんだり、嘆いたりしても、僕の手足が生えてくるわけでもないし、皆さんの耳が聞こえるようになるわけでもない。
なので、どんなに努力しても変えられないことは、そこはもう仕方がないと割り切って、努力すればいくらでも変えられるポイントに自分のエネルギーを注いでいく。ということをすると、道は拓けてくるのかなぁと、私自身はそういう思いで進んできました。
お三方とも、エネルギーのある、パワーのある方々だと思うので、是非やりたいことに全力投球して、道を拓いていっていただければと思います。

虹色の朝が来るまで

映画『虹色の朝が来るまで』

STORY
群⾺の⼿話サークルで知り合ったろう者の華(ここのみルビ: はな)とあゆみ。華は初めて同性に惹かれ⼾惑うも、あゆみと交際することになる。後⽇、華は実家へ帰り、両親にあゆみとの交際について話すと、いつでも味⽅だった⺟親から拒絶されてしまう。⺟親の態度に華はショックを受けるが、あゆみとの関係を断ち切ることがどうしてもできない。苦しんでいる華を⾒かねたあゆみは、東京で開かれる“ろう者のLGBTQ イベント”に華を
誘う。そこには、悩みを抱えつつも前向きに⽣きる、ろうのLGBTQ の⼈たちが集っていた。それぞれが今まで乗り越えて来た苦難を聞くうちに、初めは緊張していたふたりも、次第に⼼を開いていく…

監督・脚本・編集:今井ミカ 撮影:湯越慶太 ⾳楽:⾨傳⼀彦
出演:⻑井恵⾥ ⼩林遥 ⽟⽥宙 佐藤有菜 ノゾム 菊川れん ⾼⽊⾥華 太⽥⾠郎 ほか
提供:シュアール(⼤⽊洵⼈ 岡本⿇姫⼦)企画・制作:JSLTime
配給・宣伝:フィルモット ─filmott─(村井卓実)、ムービー・アクト・プロジェクト
宣伝デザイン:ドラゴンフライ(古川健 野⽥義貴) 予告:今尾偲
2018|⽇本|63分|16:9|カラー|⽇本⼿話・⽇本語字幕|英題︓Until Rainbow Dawn ©2018 JSLTime

11/20より、シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次公開!
※本作は、まずシネマート企画の映画祭「のむコレ3」内で上映いたします。

虹色の朝が来るまで