向こうの家
生津徹/望月歩/大谷麻衣/西川達郎監督

絶賛公開中の西川達郎監督、望月歩 主演映画『向こうの家』。日本各地の映画祭で続々受賞、ノミネートされ、好評を博した本作は、一見仲睦まじく見えて、やや壊れかけた家族と、父親の愛人を巡る物語を、少年の視点 で、優しく潔く描いている。共演は、大谷麻衣、生津徹、南久松真奈、円井わん、植田まひる、小日向星一、竹本みき、でんでん。
劇場で販売されている本作のパンフレットには、主演の望月歩をはじめ、大谷麻衣、生津徹、西川達郎監督らの作品に対する思いを綴ったインタビューが掲載されているが、実は誌面スペースの都合上カットされている内容がある。そこで本稿では、パンフレットに掲載しきれなかった分を含めた「ノーカット完全版」でたっぷりとお届けする。『向こうの家』の魅力をさらに深く探りたい方はもちろん、これから観ようかと興味持っている方もぜひご覧いただきたい。

『向こうの家』あらすじ
自分の家庭は幸せだ、と思っていた高校二年生の森田萩(演・望月歩)。しかし父親の芳郎(演・生津徹)にはもう一つの家があった。「萩に手伝ってもらわなきゃいけないことがある」芳郎の頼みで、萩は父親が不倫相手の向井瞳子(演・大谷麻衣)と別れるのを手伝うことに。自分の家と瞳子さんの家、二つの家を行き来するようになった萩は段々と大人の事情に気づいていく……。

『向こうの家』は渋谷シアター・イメージフォーラムにて 10月25日まで公開中。

インタビュー

「なんか、もっと大人ってしっかりしてるもんだと思ってた。」

向こうの家

西川達郎(監督)× 望月 歩(森田 萩 役)× 大谷麻衣(向井瞳子 役)× 生津 徹(森田芳郎 役)

1.西川監督が描きたかった少年の成長劇とは?
2.キャスティング
3.登場人物の設定
4.キャストが語る、登場人物のキャラクター
5.キャストが考える役柄との共通点・相違点
6.萩の世代、学ぶことと成長
7.お客様へのメッセージ

1.西川監督が描きたかった少年の成長劇とは?

知らなかった世界を知ることで得られる成長

– 本作は、西川監督が原案となっていますが、作品の発想のきっかけは?

西川達郎監督
ずっと、少年の成長の話を描きたいと思っていました。でも、少年が大きな壁にぶつかるとか、何かに挑戦するのではなくて、大人たちの事情や、大人しか知らないことを少年が知ることで成長し、大人に近づいていく話を描きたいと思っていました。
そこで、少年の視点からは見えない大人たちの領域ってなんだろうと考えました。
少年からは、大人の恋愛や不倫みたいなものはみえづらいでしょうし、瞳子さんのような立場と、年齢の人に会うってこともなく、すごく遠い存在だと考えました。その遠い存在の人に会うことが、少年が変わっていくきっかけのひとつになり、新しい世界を知り、見えなかったものが見えてくることで、成長の物語を描けるのではないかと考えました。

西川達郎監督
西川達郎監督

原案の西川監督と脚本の川原杏奈さんとのキャッチボールでつくられた脚本

– 原案が西川監督で、脚本は川原杏奈さんですが、原案ではどの程度、設定は決まっていたのでしょうか?また、お二人の間では、どういったやりとりが行われましたか?

西川監督
原案は、愛人が住んでいる家があって、その家に少年が訪れるところや、だいたいの登場人物までは決まっていました。
川原さんが生み出したキャラクターは、船のオーナーの千葉さん(演・でんでん)になります。
僕が原案を川原さんに投げて、本として上がってきたものをまたこちらで変えたり、話し合っては、また投げてのキャッチボールで作っていきました。そのやりとりは、10稿以上に及びました。

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2.キャスティング

オファーと逆オファー

– 登場人物のキャスティング、オーディションの有無や、役者の選び方や決め手などを教えてください。

西川監督
まず、オーディションはありませんでした。役者のみなさんは、僕からのオファーか、歩くん(望月歩さん)は、所属事務所の方が僕の企画を見てくださって、推薦していただきました。そこで歩くんに会ってみて、萩にピッタリだなと思って、出演をお願いしました。
大谷さんは川原さんの知り合いで、僕も大谷さんが出演していた作品を観ていたので、大谷さんなら瞳子さんに合うと思ってお会いしました。
生津さんは、以前に出演作を拝見させていただいたのがきっかけで、作品に出て頂けないかとお話をしました。
このように、オファーか、逆オファーという形でキャスティングは決まっていきました。

【同い年の監督と一緒にモノづくりをがんばりたい!】

大谷麻衣(向井瞳子 役)
脚本を読んだ時の印象は、「こんな役がやりたかった!」でした。まず、川原さんから連絡をいただいて、西川監督にお会いすることになった時は、どんな方なのかなと、とても楽しみでした。これまで、自分よりも年上の監督とお仕事させていただくことが多かったので、西川監督にお会いし、同い年ということがわかって、より一層一緒にがんばりたいと思いました。
同い年の監督は初めてでしたし、卒業修了制作作品というのも初めてでした。当時、“作品を作っていく作業”というものに、とても興味があったので、西川監督に出会えたのは、まさにご縁ですね。

大谷麻衣(向井瞳子 役)
大谷麻衣(向井瞳子 役)

【声をかけていただいて本当に嬉しかった】

生津 徹(森田芳郎 役)
台本がとても面白かったので、声をかけていただいて本当に嬉しかったです。
決定稿ではなくなってしまったのですが、第何稿かの芳郎の台詞に「お母さんにバレる前に何とかしなきゃいけないんだよ!」というのがありました。これを息子に言える父親って、なかなかいないんじゃないかなって思いました。もし、自分がそういうシチュエーションになったとしても、まず言えないでしょうね。

生津 徹(森田芳郎 役)
生津 徹(森田芳郎 役)

出会いと撮影の暑い夏

– 監督とみなさんがお会いしたのは、いつ頃でしたか?

西川監督
2017年の夏ですね。撮影は、2017年の9月の終わりから、10月の初頭にかけて行いました。
作品同様、夏休みの終わりから秋口にかけてという時期でした。

大谷麻衣
2017年は秋口まで暑い年で、夏が残っていた印象がありますね。

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3.登場人物の設定

植物に由来する森田家の名前

– 萩くんは、Twitter上の登場人物紹介ツイートに名前の由来が明記されていますが、他の方々を含め、設定に関してエピソードはありますか?

西川監督
実は萩くんの名前は、最初の段階では、“英治”だったんです。それがその後にでてくる、植物に関連する設定を考えたときに、“萩”という名前に変えました。なので、植物つながりで、萩のお姉さんの名前も“芽以”に決まっていきました。
また、そのころに、“森田”という苗字も確定し始めたという流れがあります。

– 森田家の母・奈保子さんは、植物が嫌いといったセリフがでてきますが、子供の名前が植物系な理由は?

西川監督
母・奈保子が植物を嫌いにも関わらず、子供の名前が植物系な理由は、植物好きな父・芳郎さんの抵抗ですね。

大谷麻衣
芳郎さんは、そこに関しては我を通したんでしょうね。
植物を置けないくらいなら、せめて子供に植物の名前をつけることくらいならいいだろうって(笑)

瞳子さんの名前と、映画のタイトルについて

-“向井瞳子”という名前と映画のタイトルについてのエピソードを教えて下さい。

西川監督
“瞳子”という名前は、初稿があがった段階で、すでに名前が存在していて、その次の稿から苗字の“向井”が出てきました。
この“向井”が現れた時点で、映画のタイトルは『向こうの家』に決まっていきました。
ちょっと驚いたエピソードとしては、『向こうの家』の予告編映像へのコメントとして、「“瞳子”っていう名前は愛人気質な人が多いね」みたいな事が書かれていて、「えっ!?そうなの?」って思ったことがあります(笑)

– 大谷さんの瞳が綺麗なので、そこに由来したものと思っていました。

大谷麻衣
ありがとうございます(笑)
“瞳子”という表記の名前って、珍しいですよね。“桃子”とか“透子”は多いと思うんですけど。
“瞳”という漢字を使った“瞳子”を目にするのが私は初めてでした。
私は自分の瞳が特徴的だと、周りの方からおっしゃっていただくことが多いので、そこは、私の特徴と瞳子の名前がリンクして、運命を感じてしまうところがありました。
“向井瞳子”って、とても良い名前ですよね。
作品を観てくれた方々から「瞳子さん」と呼んでいただく事が多いです。それが、作品の中でちゃんと役として生きられていたんだという証のようで、嬉しかったですね。

芳郎さんの名前と、名監督の名前の関連性

– 芳郎さんの名前に、森田芳光監督との関連性はあるのでしょうか?

西川監督
その点については、よく言われますね。
芳郎さんの名前が、森田芳郎になった時点で、そのことが頭をよぎった部分があります。萩の彼女の名前が、“成瀬”なところも、狙いすぎないくらいの距離感で考えています。

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4.キャストが語る、登場人物のキャラクター

生津さんが考える森田家の父・芳郎

– 生津さんからみて、父・芳郎さんはどんな人だと考えますか?

生津 徹
芳郎さんは、ピュアな人だと思います。
初めて本を読んだ時、うまく立ち振る舞いができる人ではないんだろうなという印象がありました。「よく話し、よく理解しましょう」という考えで、食後に語り合う場を持とうとする妻・奈保子との関係も、純情であるが故に方向修正ができなかったんだと思います。もうちょっとずる賢さのようなものがあれば、夫婦の良い距離感を保てたのかもしれないですよね。夫婦間の問題があるが故に、瞳子さんという家族以外の居場所が必要だったんだと思います。
芳郎がやっていることはただの不倫ですが、彼の心は非常に純粋です。だから、子供たちの事は可愛くて可愛くて仕方がないんだと思います。
40代半ばにもなると思っていることがなかなか言えなくなってくると思うのですが、この作品での芳郎の台詞は、とても素直で率直ですよね。だからでしょうか、不倫とはいえドロドロしたイメージがありませんでした。
僕の年齢的には、不倫というとどうしても松本清張さんがすぐ頭に浮かんでしまうのですが、そちらではないなという感じはしていました。

西川監督
父・芳郎はいろんな意味でいい人ですね。いい人であるが故に、間違って戻れなくなってしまうところがあると思います。

【二人の距離を近づけたシーンとアドリブ】

-“いい人”といえば、芳郎さんが、職場の元気のない社員に対してとった行動をパワハラととられたと、瞳子さんに愚痴るシーンがありましたね。

生津 徹
「パワハラ!?」っていう台詞のシーンですね。

西川監督
あれ、すごく好きなシーンです。

大谷麻衣
あのシーンは全部アドリブなんですよね。

生津 徹
そのアドリブが自分の首を絞めることになるんですけどね(苦笑)

大谷麻衣
でも、あのシーンは奇跡でしたよね。

生津 徹
落としどころが「あれ?俺、そんなこと言える立場じゃなかった。」ってね。

西川監督
あのシーンは、カットがかかったあと、スタッフみんなが爆笑していたのを覚えています。

生津 徹
芳郎と瞳子さんとのシーンって数が少ないのですが、あのシーンで一気に二人の距離を近づけることができましたね。

【芳郎と瞳子さんのおつきあいの期間はどれくらい?】

大谷麻衣
西川監督の設定はわかりませんが、二人はとても長くおつきあいをしていると考えていました。美術部さんが、いろんな国のお土産みたいなものを部屋中にちりばめてくださっていたんです。
なので、芳郎さんの出張を隠れ蓑に瞳子とあちらこちらに出かけて行った気配がリビングからしていました。
瞳子は、いらないものは倉庫に入れていますけど、芳郎さんとの思い出は、目の付くところに置いていたんだと思います。

– 芳郎さんからもらったのは、本だけではないんですね。

大谷麻衣
はい。芳郎さんからの贈り物や思い出を瞳子は目の付くところに散りばめていたと思っています。

【美術部の仕事:演者と役を一体化させる美術部のつくりこみ】

– 美術部の話がでてきましたが、瞳子さんが手にする本について教えてください

西川監督
今回の作品で、美術部は映っていない部分も含めてかなり作りこんでいます。瞳子さんが手にする本は『植物幸福論』で、架空の書籍です。でも、いい名前だと思いませんか?

大谷麻衣
『植物幸福論』も作りこんであって、中身は何かの小説だと思うんですけど、開けるページがあって、そこには、萩のイラストと説明が書いてあるんです。

生津 徹
美術部さんのお仕事、部屋の作り方とか、本当にすごかったです。

大谷麻衣
細かいところまで作りこんでくださったので、私も瞳子に入り込みやすかったです。

【西川監督が美術部にお願いしたこと】

西川監督
この『向こうの家』という作品は、ある意味で家が主役という部分もあったので、あの家が魅力的でなければダメだと考えていました。
美術部のみんなには「住みたくなるような家を作ってほしい」とお願いし、それに全力で応えてくれました。

生津 徹
女の人が独りで住んでいるんだけど、絶妙に男の香りがして、男がちゃんといる家だなっていう感じがしました。特にあの和室に。

大谷麻衣
そうですね。芳郎さんの香りを感じましたね。

西川監督
最後は全部撤収してしまったんですけど、あのまま残してもらったらよかったですね。

望月さんが考える萩くんのイメージ

– 望月さんからみた、萩くんのイメージはどのようなものですか?

望月 歩(森田 萩 役)
萩をイメージするにあたって、まず、父・芳郎をイメージするところから始めました。その芳郎の小さい頃というイメージが自分には強くありました。惹かれているものや思っていることが、二人ともものすごく近いんだろうなと本を見て思っていました。
なので、父・芳郎が大人に成長する前が萩だなと思って役作りをしていました。

望月 歩(森田 萩 役)
望月 歩(森田 萩 役)

西川監督
歩くんは、器が大きいというか、なんでも吸収して、その場に自然に立ててしまうところがあって、そこがすごいところだと思います。
萩であり、歩くんとして、当たり前のようにあの家に存在して、当たり前のように現場にいることができていて、等身大でいてくれていたなと思っています。マイペースなところもあるんですが、本番が始まると、キュッと変わるところも素晴らしかったですね。

大谷麻衣
「あ、いま、歩くんだ。あ、いま。萩くんだ。」っていうメリハリがありました。

【萩くんの相手の見方・距離の取り方】

– 彼女(成瀬)を苗字で呼ぶ萩について考えたことは?

望月 歩
彼女なのに、苗字で呼ぶことをなぜなんだろうと考えた時にも、やはり、父・芳郎も高校生の時に同じだったのではないかと考えるところがあり、そのイメージが特に強かったです。
相手の見方とか、距離の取り方とか、父・芳郎と萩は同じ見方をしているものだと思っていました。

大谷さんが考える瞳子さんのイメージ

【瞳子さんは、男女を問わず憧れる女性像】

– 大谷さんからみた、瞳子さんのイメージはどのようなものですか

大谷麻衣
瞳子さんは、すごく芯のある強い人だなという印象です。人に弱いところを見せない女としてのプライドがある一方、はしゃぐときにははしゃぐ、バランス感覚に優れた人だと思いました。
瞳子さんの凛としているところに、私は彼女ほど強くないなと感じました。女性にとっても、男性にとっても、憧れる女性像となる位置にいる人ですね。
泣きも喚きも怒りもしないというある種、出来すぎている女性であるにもかかわらず、不倫してしまうんですけどね(笑)
こんなにしっかりしているのに、いまだに独身で不倫しているところに、瞳子さんの闇というか、人間らしさがあるなと感じていました。

【瞳子さんの仕事と生活】

– 瞳子さんの仕事、暮らしぶりについて。瞳子さんの経歴や日常の暮らしはどのようだと考えますか?

西川監督
いわゆる夜のお店とかのお仕事の経験がある方というイメージはあって、芳郎さんが用意した家に住んではいるけれども、働かなくても自分で多少は暮らせるくらいの貯えがあるという裏設定は考えていました。

大谷麻衣
瞳子さんの金銭感覚は堅実だと思っていました。たとえ多くのお金を手にしたとしても、湯水のごとくは使わないタイプのイメージです。
どこかに定住するとか、家庭を持つとかからは遠いところにいて、独りで生きていきそうな方なので、貯えはしっかりしていると思います。家だけは、芳郎さんが面倒をみているかもしれませんが、それ以上のお金をもらうとかはしない人だと思います。

【高台に位置する家、瞳子さんへのこだわり】

西川監督
高台の家へと通じる長い階段を萩がのぼる事そのものが、萩の成長の象徴です。また和洋折衷の建物それ自体が、瞳子さんという立場の曖昧さを表現してもいます。
瞳子さんは、完璧な女性像みたいなところがありますが、完璧になりすぎてしまうと、キャラクターとして嫌われてしまうので、やはり人ならば少なからずあるどこか抜けている部分や、弱い部分を大谷さんと調整しながら演出していきました。

大谷麻衣
内に秘めた強さはいいんですけど、表に出過ぎた強さが嫌味になってしまうと、観ている方々から瞳子さんが嫌われてしまうと考えました。この作品は瞳子さんが嫌われてしまうと破綻してしまうので、その細かなバランスは現場で微調整して、もっとやわらかくだとか、もうちょっと意地悪にとか、監督と私で逐一、意見を交わしました。

西川監督
瞳子さんは、衣装でもこだわっています。
美術部には女性ブランドの“ミナ ペルホネン”の写真をいっぱい送って、「こんな感じの服でお願いします!」と依頼をしました。瞳子さんのキャラクターを作りこむことが対比として萩を輝かせる事でもあるので、この二人のバランスはとても大事でしたね。

大谷麻衣
後半のヨットのシーンでは、瞳子さんと萩くんがおそろいのような格好になっていて、とてもかわいらしいんですよ(笑)

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5.キャストが考える役柄との共通点・相違点

大谷麻衣 ⇔ 向井瞳子

大谷麻衣
瞳子さんは物事をよく考える方なんだなと思っていて、そこが私と似ていると思います。
瞳子さんが芳郎さんの影響で本を好きになったか、もともと本が好きなのかは定かではありませんが、本が好きっていうのも似ています。
植物好きという点も共通していますね。私の部屋も観葉植物だらけで、萩くんといっしょに花にお水をあげたりするようなことも好きです。
瞳子さんの家の雰囲気が好きだったので、そこに瞳子さんの存在や相通じるものを感じられました。そういった共通点を見つけるたびに役が入ってくる感じがしたんです。瞳子さんの強さと弱さの根源にあるものは似ているものがあるんじゃないかと思うところがありました。
相違点といえば、私は絶対に芳郎さんを(おつきあいの相手としては)選ばない点ですね(笑)

向こうの家

生津 徹 ⇔ 森田芳郎

生津 徹
私は個人的には結婚もしていないですし、子どももいないので、生活環境的には全く共通点がありません。
シンプルに芳郎という人物を考えた時、先ほどの監督の言葉にもありましたが、“いい人”であるが故に、こういう状況になってしまったんだろうなと思いました。
自分がいい人だとは思いませんが、言いたいことが言えなくて、夫婦間の距離がどんどん離れていくというのはなんとなく理解できます。
相違点としては、まず未婚と既婚との違いがあります。子供もいません。
あと、なぜ芳郎さんは奈保子さんと結婚してしまったのかって思いました。結婚前に二人の趣味とかを話さなかったのかなって。もしかしたら、奈保子さんの家族ぐるみの力にひっぱられてしまったのかもしれないですね。確かに、そういう断り切れないようなところが芳郎にはあると思います。
芳郎の植物への愛情は、名付けた子どもの名前もそうですが、息苦しい結婚生活の中でどんどん大きくなっていったんだと思います。芳郎は瞳子さんのところでしか息ができなかったし、そういうところから向けられた愛かもしれませんね。恋愛関係ではなくても、ここって居心地が良いなっていう感覚って、みなさんにもあると思います。
相違点ではありませんが、相手を選ぶときは、よく考えなければダメだというのを学びました。これから結婚するかどうかはわかりませんがとても勉強になりました。

向こうの家

望月 歩 ⇔ 森田 萩

望月 歩
学校に対する考え方とかが、とても似ているなと思いました。
自分も萩と同じように、なんとなく学校を休んだ経験があります。
学校へ行けば行ったで楽しいのですが、理由もなく「今日は、学校に行かなくてもいいや」という考えを持つことがありました。大事なことが重なって、どちらかを選ばねばならないときに選べないことが以前あって、その時の考え方として、根本的な部分に同じものがあるなと思います。
萩は釣り部ですが、僕自身は釣りはしませんし、瞳子さんとの料理のシーンでの魚のさばき方は練習をしました。
でも、釣りが好きな友人がいて、半年くらい前に一緒に釣りに行ったんです。その時、友人はその場で釣った魚をさばいていたんですけど、自分は生きている状態の魚をさばくことはどうしても無理でした。
また、森田家独特のある意味温かいところで萩はずっと育ってきているというものを感じていたので、育ってきた環境の違いは感じました。

望月歩

芳郎と瞳子の会話からの共通点と想像

– 芳郎さんと瞳子さんの共通の会話としてどんな話題があったと考えますか?おそらく、二人の会話の始まりは植物の話題だと思いますが。

生津 徹
確かに二人の会話は植物の話から始まった気がしますね。

大谷麻衣
あと、息子・萩くんの話もしている気がします。

生津 徹
歩くんが話してくれたみたいに、芳郎は萩のことを若い時の自分自身みたいだと思っていて、かわいくて仕方がないんでしょうね。

大谷麻衣
瞳子さんは芳郎さんから萩くんのことを聞いているんだけど、萩くんの前では知らないふりをしていると私は思っています。
だから、萩くんと初めて顔を合わせたときでも、「名前は?」ってわかっているのに聞いて、心の中では「あ、ついに萩くんが私のところに来たわ」なんて思っていると考えていました。
萩くんに名前を聞くシーンは、すごく含みを感じていて、高校生であることも、萩という名前もすべて知っているのに聞いていると思いますね。

あのとき、確かに愛はあった

生津 徹
作品の中で、芳郎と瞳子さんが二人で話す機会は少ないので、その数少ない二人でお酒を酌み交わすシーンは、俳優の作業としてきっちりと距離を埋めておかねばと思って臨みました。そうしたら、大谷さんとはとても波長が近くて、引き込んでもらいやすかったし、芳郎と瞳子との歴史にすんなりと入らせてもらって楽しかったです。二人って、こんな生活をしているんだろなっていうことを感じられました。

大谷麻衣
確かに愛はありましたね、あのとき。

西川監督
名言ありがとうございます!「あのとき、確かに愛はありました。」

生津 徹
自然とそういう状態にさせてもらえました。

あたかも本当の親子

大谷麻衣
瞳子さんは、きっと萩くんを通しても芳郎さんを愛していたんですよ。
愛している人の子どもじゃないですか、やはり、ここは二人セットで、親子だなっていう感じ。

生津 徹
確かに親子だなっていう部分を僕も学びましたね。
萩とのシーンの中で、喫茶店のシーンはそれ自体が面白いんですけど、気持ちが高ぶってくるとさらに楽しく、面白くなりました。

大谷麻衣
瞳子さんの家に初めて行った萩くんが追い返されてきた夜、萩くんの部屋のドアを開けるタイミングとか見事でしたね。

生津 徹
あのシーンは決して叱っているわけではないんですが、親が子供を叱るときって、こんな感じなのかなってちょっと思いましたね。
「なんで!?なんで帰ってきているんだよ!」っていう、俺だったらそんなことしないのにっていう。というか、DNA的なものがあるからこそ生まれてくる感情だったんだと思います。

大谷麻衣
お二人が並ぶと、本当に親子に見えました。

西川監督
バス停での二人の横並びのショットは、特にそう見えましたね。

大谷麻衣
歩くんが、萩くんは芳郎さんの若い頃だとイメージしたと言っていたように、瞳子も萩くんをみて、若い頃の芳郎さんを投影してみていた気がしました。歩くんと生津さんの空気感は芝居をするうえでも、助けてもらった要素のひとつです。

生津 徹
歩くんと親子として違和感なく居られたのは、歩くんが「萩のイメージは父・芳郎の若い頃」という役作りをしてくれていたからだったんだなと。。先程の歩くんの言葉を聞いて、なるほどと思いました。お芝居をするのは初めてでしたけど、萩からの芳郎に対する拒絶を感じることもなく、自分の子のように接することができました。
歩くんの役作りのおかげです。ありがとうございます。

釣り部の二人

【釣り部の二人のエピソード】

生津 徹
釣り部の二人(萩と英治)の部室での会話も面白かったですよね。

大谷麻衣
実年齢としては、英治役の小日向くんの方が歩くんよりも年上なんですよね。

望月 歩
6歳くらい年上だと思います。

生津 徹
全然違和感がなかったですね。

西川監督
年齢差があるにも関わらず、二人は完璧にハマって高校生同士に見えました。
掛け合いとしては間合いが難しいところもあったのですが、それをきれいにやってのけてくれて素晴らしかったです。

向こうの家

– 望月さんは、小日向星一さんと初共演だったんですよね?息の合わせ方とかコツは?

望月 歩
小日向さんとは初共演でした。
コツとか、そういうところまでは意識していませんでした。
本番が始まる前の会話や現場の部室で一緒に過ごすことができたのがよかったのだと思います。

西川監督
二人は演出に入る前に、友人同士という空気感がでていたんですよ。
二人だけの仕度部屋に打合せに入ったら、その場に普通に高校生がいるっていう感じでびっくりしました。

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6.萩の世代、学ぶことと成長

萩の不登校の理由と学生の世代・考え方

西川監督
例え明確な原因がなくても、不登校になってしまう人はいると思っています。
萩には自分が高校生だった頃の気持ちを少し投影しているところがあります。部活を半年で辞めたりしてほかにすることもなくモヤモヤとした時間を過ごした高校生でした。
映画を撮りたいと思っていたけど、何をしてよいかわからない状態でした。
そんな中途半端なタイプの学生で、不登校にはならなかったのですが、学校に行っても行かなくても、どちらもそんなに変わらないんじゃないっていう気持ちがありました。なんとなく休みたいと思っていたこともあるし、なんとなく不登校でもいいかなっていうのが萩にもあります。

大谷麻衣
人生において、理由も無くなんとなく休めるのって学生時代だけだと思うんですよね。
強い責任感を持っている子もいますけど、持っていない子の方がきっと多くて、学生って社会的に自分の位置が明確になっていない時期だと思います。
不登校に対して、それも許容する森田家の両親は、萩にいじめのような何かがあって休んでいるわけではないことをわかっていたのではないかと思います。萩くんの性格的に、時期が来たらきっと自分で解決して学校に戻っていくことがわかっていたんだと思います。

西川監督
不登校の明確な理由があれば、それを正そうと奈保子さんもするんでしょうけど、理由がないからこそ、森田家の食卓でのあの対応になるんだろうなって考えますね。

西川達郎監督
西川達郎監督

学ぶことと成長

– 冒頭で少年の成長劇を描きたかった話がありましたが、学びのシーンが数多く出てきますね

西川監督
成長にあたって学ぶっていうことは必要なものなのですが、映画の中でこれ見よがしにはしたくないところがありました。
日常の中で学ぶこと、瞳子さんと花の水やりをやってみたり、果物のはちみつ漬けの作り方を見たりするように、何気ないことから学んでいくことを意識しました。

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7.お客様へのメッセージ

生津 徹
『向こうの家』は青春映画だと思うのですが、僕くらいの年齢で不倫している男の人には、ぜひ見てもらいたいですね(笑)
「オレも、こうしてみたい!」っていう中年の夢を僕(芳郎)は叶えている自負がありますので、それを楽しみに見に来ていただきたいです。こういう方法もあるということを掴んで、それぞれの家庭に持ち帰ってもらえればと思います。中年男性で、不倫真っ最中の人たちにはそんな楽しみ方ができます。
この映画本来の魅力や楽しみ方については、歩くん、大谷さん、そして西川監督から紹介をお願いします(笑)

望月 歩
自分の家族のことや、役者であること。生き方やまわりとのことに、自分でも、昔こうしておけばよかったなということがありました。そういうことを考えることが、萩と同じ近さを感じるので、自分の過去を思い出しながらお芝居をすることができました。
僕らの年齢層って、映画を観ている人が少なくて、観ていたとしても、派手なアクション映画やキャピキャピした恋愛映画だったりすることが多いと感じます。
ただ、僕くらいの年齢の人でも、自分の体験でなかったり、関係のないことに、涙を流したり、懐かしくなる経験があると思います。『向こうの家』のような雰囲気、少年の成長といった話にも触れてもらえば、新たに感じるものが増えると思いますので、普段、こういった映画を観ない世代の方々にも観ていただきたいと思います。

望月歩

大谷麻衣
瞳子さんの家に行くまでのあの長い階段というのは、この作品を通した中で、メタファーというか、何かをデフォルメしているところがあって、萩くんくらいの年齢の子には、成長として上がる階段で、経験を得たら下りてくる象徴だと思います。
一方、同じ階段でも、芳郎さんのような大人の男性にとっては人生の寄り道であり、癒されたら立ち去っていくイメージです。
この作品は、あのひと夏の男の子の成長と、一息入れたいと何年か繰り返した大人の長い夏休みの2つのニュアンスが含まれていると思います。
観る世代によっても、性別によっても、作品の色とか、少しずつきらきらする輝きとか、感じるものは変わると思うので、いろいろな方に観ていただけたらいいなと思います。

西川監督
今までみなかった大人たちの姿を観ることで、大人も自分たちと同じ面があるんだとか、今の中途半端な高校生の自分の延長線上に大人がいるのだから、焦ることはないし、ゆっくり成長していけばいいんだと当時、自分が感じていたものを重ねながら、この作品を作りました。
かつて高校生だった大人たちが、同じ気持ちになって作品を観てくれたらなと思います。
また、萩と同世代の人たちも、この作品を観ることで、きっと何かを持ち帰れると思っています。
『向こうの家』の愛せる部分を観た人それぞれが持ち帰ってくれたら嬉しいです。

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向こうの家

[聞き手:Ichigen Kaneda/写真:Jun Sakurakoji]

映画『向こうの家』

出演:望月歩、大谷麻衣、生津徹、南久松真奈、円井わん、植田まひる、小日向星一、竹本みき、でんでん

監督・原案:西川達郎
プロデューサー:関口海音|脚本:川原杏奈|撮影:袮津尚輝|照明:小海祈|美術:古屋ひな子|サウンドデザイン:三好悠介|編集:王晶晶|音楽:大橋征人

製作:(C)東京藝術大学大学院映像研究科|配給 :『向こうの家』上映委員会
2018年|日本|82分|カラー|5.1ch|アメリカンビスタ

公式 サイト:https://mukonoie.com/

渋谷シアター・イメージフォーラムにて21時10分〜 絶賛公開中!!!

向こうの家