カメラグランプリ2018

このほど、カメラグランプリ2018が発表され、ソニー「α9」が大賞を受賞しました。本機は、フルサイズ映像素子を持つミラーレスカメラとして、高い先進性を示したことが評価されました。
さて、本稿では「取材」の現場ではスチールカメラがどのように使われているか?ということを紹介した上で、取材観点で、カメラグランプリ2018の内容を評価してみます。

取材現場でのカメラタイプ

同じ記者会見の写真でも、メディアによって、その写真の「質」に大きな差があったりすることにお気づきでしょうか?
わかりやすい差は、ホワイトバランスの違いによる写真の「色合い」と「影の付き方」。
特に「影の付き方」はストロボの使い方に“カメラマンの愛”が無いと、汚い影ができたり、顔がテカったりして、せっかくの美しいアイドルや女優さんが可哀相な感じの写りになりがちです。

テレビなどで見かける記者会見の現場では、ほとんどのカメラマンはいわゆる「一眼レフ」と呼ばれるカメラを持っているのが目立ちますが、各メディアの報道姿勢や派遣されるスタッフのタイプなども関係して、おおよそ以下のように大別されます。

(1)とにかく超高品質写真狙い!

“ガチ”ハイスペックカメラ

キヤノン・EOS-1Dシリーズ、ニコン・D5などの“フラッグシップ”機のカメラなどに、外部バッテリーを接続した外付けストロボの組み合わせ。
更に、ストロボはカメラのサイドに取り付けて、被写体の赤目が発生しにくいようにしている。
レンズは開放F値が小さい明るいレンズ(=高価なレンズ)。
こういったカメラを持ってる人は、専業カメラマンの人が多い。中には、記者を兼ねた人もいる。

(2)がんばって高品質写真狙い!

ミドルクラススペックカメラ

“フラッグシップ”に準ずる機種の一眼レフ+外部ストロボの組み合わせ。
カメラは、フルサイズだったり、APS-Cだったり、さまざま。
このクラスでも、撮影技術を習得した人であれば、十分に“愛のある写真”を撮っていて、撮影技術も大事だと考えているカメラマン・記者が多い。
ストロボだって、被写体への直射はしません。部屋が小さければバウンスを使ったり、ディフューザーを使って影をやわらかくしたり、照明環境によってはホワイトバランスを調整し、ストロボへのカラーフィルターの取り付けを検討します。
被写体を綺麗に撮ってあげたいというカメラマンの気持ちが伝わる写真が記事に掲載されます。

(3)そこそこ写真撮れればいいや

レンズ一体型デジカメ/コンパクトデジカメ

このクラスになると、ストロボは内蔵。なので、バウンス撮影やディフューザーはもちろん、カラーフィルターなんかも使わない上に、事前のホワイトバランス調整もしないことが多く、出来上がる写真の「色合い」は不自然。
現場の照明条件によって、赤味がかったり、青みがかったような色合いに。
また、被写体への直射ストロボなので、非常に汚い影が顔にできたりして、いわゆる「ザ・素人写真」になりがちです。
このへんで適当に写真を撮ろうとする記者は、被写体に対する愛が少なめ。
特に、コンデジで適当に撮ってる記者は、現場の証拠写真的な意味合いなのか、新聞の片隅に小さく白黒写真で掲載されるぐらいを想定しているのかそんな感じのようです。
会社からも写真についての品質は求められていないのでしょう。

(4)まさかのスマホ!?

スマホカメラ

私の経験では一度だけですが、映画舞台挨拶取材でなんとスマホカメラでフォトセッションに参加している記者がいました。
登壇者の身内のスタッフとかではなく、記者でです。
最近のスマホカメラは高画質化しているとはいえ、これには驚きました。
ちなみに、多くのタレントを抱える某大手芸能事務所は、報道目的であっても、記者会見においてスマホカメラで撮影することを禁止しています。

いかがでしょう?
報道現場といっても、けっこういろんなタイプのカメラマンがいることがおわかりいただけたでしょうか?

報道写真に求められるスキル

白が白として見えるように

前章の(3)(4)は切り捨てた上での話ですが、報道写真は(動画もそうですが)、「白が白として見えるように」ホワイトバランス調整することがほとんどです。このことの意味がどれほど伝わるかという不安は少しありますが、アート系写真と違って、白さを再現するということです。
カメラに詳しくない人は、通常、ホワイトバランスはオートにするのがほとんどだと思いますが、取材現場は屋内が多く、照明の種類や色もさまざまで、オートだと、白が白として見えることはけっこうまれなんです。
ですので、ストロボを使うのか使わないのか?どういう照明なのかとか、いろんな条件を鑑みて、ホワイトバランスをどうするか考えます。
取材現場によっては、事前に「白紙」を使ってホワイトバランス値を取得するタイミングをもらえるので、それだと調整がかなり楽になります。

電球やローソクの色で暖色系の色合いの写真。これはこれで味がある色合いという見方もできますが、報道写真ではあまり採用しません。
“白が白と見える”ようにホワイトバランス調整した写真。照明やローソクの色に影響されていません。

ストロボの使い方

前章にも書きましたが、ストロボの光を被写体に直射すると“汚い光”になります。“汚い光”とは、被写体に不自然な影ができること。
逆に、“綺麗な光”とは、被写体に光が回り込んで不自然な影が少ない状態。極端なわかりやすい例を言うと、アイドルのポートレート写真とかを想像してください。目の下、鼻の横、顎の下など、影の境界がボヤッとしてて、美しい印象です。
ただし、影が無いことがベストというわけではなく、光の拡散をコントロールするグリッドを使って“計算した影”を敢えてつけることはあります。
いずれにしても、取材現場での写真撮影は、スタジオ撮影のように機材も時間もありませんので、限られた範囲内でできることをやります。
それに用いる手法や機材が、バウンス、ディフューザー、カラーフィルターなどです。
例えば、映画館で行われる映画舞台挨拶の場合。照明はたいていアンバー色です。アンバーな照明に対しては、ホワイトバランス調整と共に、ストロボに適切なカラーフィルターを付けることで、「本来の色」に戻すことができます。いわゆる、「白が白として見える」色合いの写真を撮れます(技術的な詳しい解説は割愛します)。
さらにディフューザーを装着すれば、光が拡散して、被写体に嫌な影ができにくくなり、俳優さんを綺麗に撮ることができます。

ディフューザーもさまざま

クリップオンストロボ付属の簡易的なディフューザー(アンバーフィルター装着)
ソフトボックスに近い効果が得られるROGUE FlashBender

やっぱりレンズが大事

カメラ本体の性能はもちろんですが、レンズの性能は写真の画質を決める重要ポイントです。
残念ながらここが“値段”に直結する一番の要素かもしれません。
「明るいレンズ」と言われるものは、一般的に「開放F値が小さいレンズ」で、値段も高くなります。
特に、舞台演劇や、音楽ライブなどの撮影では、レンズの性能でその写真の仕上がりに大きな差が出てくることが多いです。
取材とは違いますが、ポートレート撮影や風景撮影だってそれは同じでしょう。

そして“愛”

記者であっても、被写体には“愛”を持って、「綺麗な写真を撮らせてもらう」という気持ちが大事です。
それがないとせっかくハイスペックな撮影機材を持っていても、宝の持ち腐れになるかも。
それは撮影する時はもちろん、記事に載せる写真を選定する時もそうです。
そして、よく聞く言葉のフォトショップ加工も、必要最小限の調整はやるべきですね。

記者会見場でのマナー

取材現場でもいくつかの暗黙の了解となっているルール、マナーがあります。
連写音を響かせて良い時、良く無い時。
ストロボを光らせて良い時、良く無い時。
また、取材現場の多くは、テレビカメラも来ていますので、それらに対する配慮も必要です。
このへんはまた機会があれば紹介します。

取材観点から見たカメラグランプリ2018

ソニー「α9」
ソニー「α9」

長くなりましたが、カメラグランプリ2018。大賞は、ソニー「α9」。ソニー製フルサイズミラーレスカメラのフラッグシップ。
このカメラの特徴を考えると、さまざまな報道現場でとても重宝しそうです。
それはこんな特徴です。

特徴1:フルサイズ
報道写真でフルサイズの画質がどこまで必要か?という疑問と、望遠に弱いというデメリットはありますが、モデルさんや俳優さんをできるかぎり綺麗に撮りたい!という現場では、やっぱりフルサイズ。

特徴2:ミラーレス
ミラーレスは、ファインダー内での見た目そのままに撮影できることはけっこうポイント高い。
いちいちモニタを見なくても、撮影しながら(ファインダーを覗きながら)、ISO・シャッタースピード・F値(絞り)をどんどん調整できる。
実はこのメリットは、モデルさんがいるポートレート撮影でも有効。撮影スタート時はプロでも試し撮り要素が高くなるので、いちいちモニタで撮像を確認しながら調整していると、リズム感が悪くなる。
でも、ミラーレスだとファインダーを覗きながら、モデルさんに気づかれずにいろいろパラメータを調整しつつ、リズム良く撮影を進められるので、モデルさんの安心感にも繋がるのです。

特徴3:最高20コマ/秒連写
じっくりポーズを要求できなかったり、被写体の動きが予測できない報道現場では、なんといっても連写が必要です。例えば、東京ガールズコレクションなんかのランウェイ。つぎつぎとモデルさんが登場してくるので、ゆっくりとベストショットを狙う猶予はありません。
連射が高速すぎると、ストロボが追いつかないこともありますが、ノーストロボ時なら、20コマ/秒はありがたい。

特徴4:歪みの少ない電子シャッター
電子シャッターは無音なので、シャッター音を出せないような、舞台演劇撮影や、肉声での囲み取材時には大変重宝します。ただ、電子シャッターはその機構上、写真に歪みが出やすいデメリットがありますが、この「α9」はそれを極力抑え込んだとのことで、これまた重宝しそう。

特徴5:低ノイズISO
ISO値を大きくすると、暗い場所に強くなりますが、ノイズが目立つようになります。
「α9」はこのノイズ発生量が低く抑えられていて、ISO値を大きくしても他のカメラよりも撮像が綺麗。
ストロボが使えない環境で、且つ、シャッタースピードや絞りでも対処できないほど暗い取材現場では、最後に頼れるのはISO。その時にノイズが少ないというのは大きな安心に繋がります。

特徴6:FHD/60P・4K/30P動画
スチール前提で取材に行った場合でも、時には動画撮影も必要になることがあります。
テレビ放送用途も考えると、FHD/60Pで撮影できれば必要十分な性能です。

●カメラグランプリ2018 大賞

ソニー「α9」
[選考理由]
今後のカメラの可能性を感じさせる歴史的な一台。35mm判フルサイズ撮像素子を採用したミラーレス機として高い性能を持つ。メモリー内蔵35mmフルサイズ積層型CMOSイメージセンサーの高速読出しにより、メカシャッターではなく電子シャッターをメインとして使うミラーレスカメラの可能性を示した。それにより電子シャッターでありながら歪みの少ない像で、無音撮影でのAF/AE追従最高20コマ/秒の連写と電子ビューファインダーのブラックアウトをなくすことを実現している。AF性能も高く、画面の約93%をカバーする693点の像面位相差AFによる精度は高く、また人の瞳を認識しフォーカスを合わせる瞳AFの追従性も高い。ミラーレスカメラの印象を根底から変え、静止画でも動画でもこのカメラだからこそ撮れるもの、撮影シーンがあると感じさせられる。プロの用途にこたえるカメラ。選考委員の多くがその先進性を高く評価した。

その他の受賞機種

●カメラグランプリ2018 レンズ賞

オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」
オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」

オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」
[選考理由]
高い解像力とボケの質の両立を目指した開放F1.2のシリーズの中でも現時点で最も広角の大口径レンズ。広角レンズでも使いやすい画角である一方で、開放F1.2による浅い深度を楽しめる。メーカーが真正面から取り組んだボケは、本格カメラとして期待できる量があり美しくにじむ描写。撮影者の想いを託せるレンズになっている。ハイコントラストで高い解像感は、絞り開放から使える描写なのも魅力。レンズ構成の複雑さを感じさせない自然な描写で、撮像素子が小さくレンズの実焦点距離が短くなるマイクロフォーサーズの表現の幅を広げる。同社のボディーと組み合わせた際にAFレンズとして、確実なフォーカシングが可能。卓越した描写であり極みの一本。

●カメラグランプリ2018 あなたが選ぶベストカメラ賞
●カメラグランプリ2018 カメラ記者クラブ賞

ニコン「D850」
ニコン「D850」

ニコン「D850」
[選考理由]
光学ファインダーを用いるデジタル一眼レフカメラとしての完成形。クイックリターンミラーを装備した名機として歴史に残るカメラ。有効4575万画素という超高画素でありながら、高い次元で高速性能と高感度性能を実現。上位機と同じAFシステムによる確実で高速なフォーカスに加え、ボディー単体で約7コマ/秒、マルチパワーバッテリーパックMB-D18とLi-ionリチャージャブルバッテリーEN-EL18bまたはEN-EL18aを組み合わせれば最高約9コマ/秒の高速連続撮影を実現。低感度から高感度も高い画質であり、オートホワイトバランスの精度も高い。一点突破ではなくすべての面でバランスがとれており、報道やスポーツ、ポートレート、鉄道、風景などジャンルを問わない万能性を高い次元で実現している。丁寧な作りで思い通りに操れるスムーズな操作感も魅力。一眼レフとしての機能と使い勝手を磨き上げ、一眼レフの矜持を見せてくれた。写真愛好家が憧れる一眼レフとして仕上がっている。

●カメラグランプリ2018 カメラ記者クラブ賞

パナソニック「LUMIX G9 PRO」
パナソニック「LUMIX G9 PRO」

パナソニック「LUMIX G9 PRO」
[選考理由]
LUMIX G1(2008年発売・第20回カメラ記者クラブ賞受賞)からはじまったミラーレスカメラの10年目に登場した写真愛好家を意識した最上位モデル。本格的なスチルカメラのハイエンド機として、性能を向上させた意義があり、従来モデルから成熟してきた。静止画を撮るという行為に対して細部まで作り込まれていながら、LUMIXらしい4K/6Kフォトといった最新機能が取り入れられている。作り手が写真に向き合ったことが感じられる真面目なカメラであり、マイクロフォーサーズ機として完成度が高く、これからの実用的なデジタルカメラの方向性を示している。高速連写性能、AF性能など、シーンに応じた撮影に適応できる意欲的な一台で、写真撮影者にとって最高にちょうどいいカメラといえる。

[文:桜小路 順]