企画展「ねほりんぱほりん展」

ねほりんぱほりん誕生の経緯。観るものにココロを伝える人形操演者のチカラ。

企画展「ねほりんぱほりん展」

2018年4月28日(土)~5月27日(日)の期間、川本喜八郎人形美術館(長野県飯田市)にて、NHK人気番組の企画展『ねほりんぱほりん展』が開催されている。2018年5月13日(日)には、番組のチーフ・プロデューサー大古滋久(以下、大古P)を招いてのトークイベントが開催され、番組の誕生の経緯に始まり、人形劇形式になった理由、キャストの決定、視聴者から多くの反響を得られた秘訣についてなど、約1時間にわたって番組制作秘話が語られた。

企画展「ねほりんぱほりん展」

「ねほりんぱほりん」のプロデューサーによる制作秘話トークショー

“壊滅的状況”と称されるNHKの苦境。“U59”とは?

NHK内に“U59”という呼び名がある。
これは、59歳以下の視聴者層を表し、NHKではこの層の視聴率が壊滅的だそうだ。
受信料を将来に向けて、どのように維持するかがNHKの課題。

本日、登壇された大古Pは、「青少年・教育番組部」という部署に所属している。
このNHKの課題に対し、部署内では、ネットに流れていった若者をどうやってテレビに戻すかも課題としてあがった。

現状の打破。苦境を脱するための取材、発想

そこで、ネットで人気のある有名ブロガーはなぜウケるのかを調べるため、藤江というディレクターが20名ほどに取材をかけた。
有名ブロガーは、分かってはいたことだが、異口同音に、“顔出し無しだから、言いたいことが言える。”と語った。
それならば、顔出し無しの方向でと検討を進めている中、ネットで「○○だけど質問ある」というスレッドが流行っていることに目が留まった。
これは、ネット上で、ある職業の人や特殊な事情を抱えた人が、質問に対して裏話をぶっちゃけていくスタイルのスレッドである。
ネット上の質疑応答なので、当然、顔出しはない。
しかし、これをテレビでやるとなると、モザイクでずっと語るのはきつい。
そこに、藤江ディレクターから「人形(パペット)でも使ってみますかぁ」という意見があがった。
それが、ねほりんぱほりんという番組が、人形劇形式で行われるきっかけとなった。

キャスト決定の経緯。MC(聞き手)選び

その前年、Eテレのある番組で一緒に仕事をしたのが、山里亮太さん(通称、山ちゃん)。
彼は、相手を傷つけずに、相手の言いたいことを引き出し、かつ、彼自身も面白いことをいう。
彼の人柄と話術に着目し、MCに起用。そして、山ちゃんとコンビを組む相手として、下世話なことでも率直に聞けるYOUさんが決定した。

人形がつくりだす絶妙な効果「進化するモザイク」

人形を採用することで、可能になったこととして「顔出しNGな人が、悪者に見えずに出演できる」という効果があった。
人形を使うことで、血が通うのである。
大古P曰く、この人形劇を「進化するモザイク」と呼んでいる。

過激なことをマイルドに伝えられる。こんなこと言っていいの?っていうことにもOKが出せる。
これにより、よほどのことがない限り、テーマにブレーキをかけることがなくなった。
ただし、“身バレ”は厳禁。

人形を使うことで、ギャップの面白さが生まれた。
かわいいブタさんが登場することで、事故現場や、AV撮影現場といった場面も、柔らかく演出できる。

モザイク+ボイスチェンジャーでは、事実は伝えられるが、心は伝えられない。
人形を使うと、心が伝えられる。

番組の収録の工程は、以下のように行われる。
1.ラジオスタジオ収録(90min程度)
2.音声編集(30minに編集)
3.人形劇を追加
4.編集室でのテロップ追加

ある感動する回の収録を例に挙げて、大古Pが言うには、主人公のお母さんの手紙を朗読する場面で、音声編集や人形劇のところまでは号泣できたが、手紙の文章のテロップが入ると泣けなくなった。人形よりも文字に目が行ってしまっていたからだ。すなわち、人形操演者の技術に泣かされていたということなのだ。
あの人たちはすごい。
母の手紙をじっと聞いている主人公の心を、体の角度、ときどきおりまぜるほんのわずかな震え・揺らぎで表現していたのだ。

顔出しNGでありながら、心を表現することができるのは、こうした操演者たちの職人技のおかげ。

番組収録方法が生み出す、意外な効果

人形劇という演出は、ラジオスタジオでの収録においてもメリットがある。
照明があたり、多くのカメラを向けられている場では誰でも緊張する。
しかし、ラジオスタジオでは、カメラが回っていない。
だから、自分の家のようにソファーに座るようなリラックスしたムードで語ることができる。
YOUさんからも、メイクや姿勢に気をつかわずに済むといった声があったそうだ。

これにより、生き生きした収録現場と、心をしっかりと表現できる人形の存在。
これが、大古Pの言う、「進化するモザイク」の特徴である。

人形と一体化した役者「操演者」のチカラ

操演者の技術は、職人芸であり、残念なことに若手は少ない。
操演者の能力によって、番組の仕上がりが全く違う。
ベテランの操演者になると、口の動きだけで、伝えられるものがある。
そこに、首の動き、そして、手や胴の動きといった表現方法が組合わされていく。

実際の収録の現場では、舞台の下に、複数の操演者がもぐりこんでいて、大変。
操演者は、音声を文字に起こした台本を見ながら、再生する音声に合わせて人形を操るのだが、自分でもセリフを話し、演じている。
顔の表情や体と連動している。

いわば、「人形と一体化している役者・俳優」

番組内の解説等を表現するウシ澤アナ(元NHKアナウンサー 石澤典夫氏)の収録は、その逆で、音入れ(セリフ収録)が後だそうだ。
ウシ澤アナが担当するのは、ニュースのような情報や、危機管理的な意味合いを持つ情報が多い。

編集の度合いや、人形を撮ったあとでも、全体の流れによって文言がかわることがある。
全部つながったあとで、その全体像にハマるようなセリフを石澤さんにお願いしている。
人形の口や体の動きがうまく合わないときには、セリフのなかで微妙に母音を伸ばしたり、少し間を置いたりすると石澤さんは言う。
これは長年の経験がなせる業だ。

企画展「ねほりんぱほりん展」

企画展「ねほりんぱほりん展」

質問コーナー「番組の裏側を、逆に根掘り葉掘り聞いちゃおう!」

Q1.
語り手をどうやって選んでいるか?相手との関係をどのように築いているか?

A1.
選び方としては、ひとつは、テーマのことをしっかり、面白く語れる人。
もうひとつは、本人の人生を掘り下げて語れる人。
職業だけでなく、自分の趣味や生活など、人生を語れる人。

ゲスト選びには、慎重かつ、大切にしている。
番組の主人公となるゲストを探しだした後は、15時間以上は話を聞いている。
なんでも話してくれる関係性をつくることが大変。
相手の伝記を書けるくらい趣味、恋愛、家族のことまで聞いている。
質問や取材をしつつ、「本当だろうか?」と思う時もあるし、放送できないほどのこともある。

Q2.
人形の衣装、小道具が凝っているが、それも取材に含まれているか?

A2.
人形制作者と人形の服、小道具に関して、綿密に打ち合わせをしている。
服も忠実にするが、身バレしないようにすることが原則。
服はもちろん話の内容も、どんなに面白くても身バレの恐れがあるときはカットしている。
「そこには誰も気づかないだろう」と思うところを気にする人もいれば、「それは絶対バレるだろう」と番組制作者側が心配になるようなことにもOKを出す人もいるそうだ。

Q3.
NHKといえば考えが保守時なイメージがあるが、局内の評判は?

A3.
視聴者から「外圧と内圧がたいへんだと思いますが負けずにがんばってください」と心配してくれる人がいて、ありがたい。
局内からは、放送中というよりも、放送前に心配の声があがっていた。
放送後、ネット上の声をみて、反応が良くてよかった。
そのおかげで、局内でも応援の声が上がった。
一度のミスで、ネガティブな方向へ向かってしまうので、この潮目が変わらないとよいなと思っている。

企画展「ねほりんぱほりん展」

NHK Eテレ「ねほりんぱほりん」番組チーフ・プロデューサー 大古滋久氏(写真奥・中央)

約1時間にわたり、トークイベントでは記事に書けない話も含めて語られた。
「ねほりんぱほりん展」は、5月27日(日)まで開催中。
今後もイベントを企画しているそうなので、本企画展の開催場所である川本喜八郎人形美術館のHP<http://kawamoto-iida.com/>をチェックしてほしい。

主催者からの声

川本喜八郎人形美術館は、開館後、昨年(2017年)に10周年を迎えた。
来館者の客層は、主に人形や三国志に興味を持つ方々が多かったが、「ねほりんぱほりん展」のような新たな試みをすることで、従来来館することがなかった若い年代の方々が来館してくれた。
人形の展示にあたっては、人形単体で展示するだけでなく、来館者の声を反映している。
ソファや背景などを展示に加えることによって、番組のイメージに近い世界観を表現するといった工夫をしたそうだ。
今回の「ねほりんぱほりん展」をきっかけに、番組だけでなく、人形・人形劇にも注目が集まることを期待されている。
飯田は「人形劇のまち」。人形劇は人形が動くことでその魅力が伝わるため、人形展示のほかに操演イベントやワークショップなどの企画をしているとのこと。常設展では人形操作の体験ができる。
また、2018年8月3日(金)~12日(日)には、飯田市の重要イベントとなっている「いいだ人形劇フェスタ」の開催が予定されている。

イベント概要
企画展「ねほりんぱほりん展」
開催期間:2018年4月28日(土)~5月27日(日)
開催場所:飯田市川本喜八郎人形美術館(長野県飯田市本町1-2)
                  0265-23-3594
公式サイト:http://kawamoto-iida.com
入館料:一般400円/小中高生200円
(通常入館料で企画展も鑑賞可)
開館時間:9時30分~18時30分(入館は18時まで)

開催イベント(開催済み含む)
5/3 操演イベント!
~あの場面を目の前で再現~
5/4 ワークショップ
~あなた似の『指人形ぶた』を作ってねほりんぱほりんと一緒に写真撮影!~
5/13 NHK Eテレにこの人あり! 番組プロデューサーの制作秘話トークショー
~番組の裏側を、逆に根掘り葉掘り聞いちゃおう!~

企画展「ねほりんぱほりん展」

番組小道具の展示も。

企画展「ねほりんぱほりん展」

[写真・記事:Ichigen Kaneda]

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